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9.おさわりどこまでオッケーですか?


 

 気絶から回復した小宮に小一時間説教してから能力チェックを再開した。
 だけど、どの項目も小宮にはまだ早すぎるみたいで。
 気付けばなんか周囲の注目を浴びてたし。
 興味津々な顔した子供達があたし達を取り巻いてガン見を始めたりして。
 慌てて「見ちゃいけません」と連れ戻すおばさん連中の目線もしっかりあたし達を見てますし?
 仕方なく、またもや気絶寸前に陥った小宮の手を引いて公園を出た。
 
 近くのファーストキッチンに入ってほっと一息。コーラを飲んで喉を潤す。
 
「なかなかいい汗かいたね、小宮」
「僕はイヤなカンジの汗でぐっしょりだけどね……」
 
 あははは。なかなか面白いことを言うね〜。
 
 あははは……。
 
 あはは……。
 
 はは……。
 
 
 
 ちょびっとだけゴメン。
 
「ちょっとやりすぎた?」
 
 ストローを咥えたまま機嫌を窺ってみる。
 
「え? う、ううん、全然。比奈さんは僕のためにやってくれてるんだし。むしろ感謝しなきゃいけないくらいだよ」
 
 咄嗟に顔を上げてフォローしてくれる小宮。
 ううっ。小宮っていいヒトすぎる。
 将来、布団買わされないよう気をつけてね。
 
 目頭をそっと拭ってコーラを飲み干し、次はどこに行こうかな〜と外の景色に目を向ける。
 
 あ、カラオケ発見。
 
 そっか、カラオケBOXなら野次馬いないしいいよね。
 
「小宮、次はカラオケいこっ。なんか歌ってみてよ」
「歌……? ごめん、僕、校歌くらいしか知らないんだけど、大丈夫かな?」
 それは高校生男子としてどうなの? 小宮。
「じゃあ校歌でいいよ。あとはあたしが歌うから」
 あるわけないけど、適当に言って小宮を連れ出した。
 
 
 
 真昼間のカラオケBOXは空いてていいカンジだった。
 聴くに耐えないダミ声が扉の隙間から漏れたてたりだとか、そういうのがない。あれってテンション下がるよね、デートで来た場合。笑いを取ってるやつならいいんだけど。
 
 BOXのひとつに入って適当に数曲歌う。小宮も少ない知識の中から記憶を手繰り寄せ、どうにか一曲歌った。
 
 どらえもんのオープニング。
 
 大丈夫! 普段音楽聴かない人って、昔のアニメに走るものなんだよ! ドンマイ小宮! 落ち込まないで!
 
 
「オタクだとか思ってないから!」
「それって絶対思ってるよね……」
 
 いじける小宮に拍手を送ってタンバリンも鳴らす。逆にやりすぎ?
 
「まぁまぁ、選曲はともかくいい声してたよ小宮。ハイ、お茶でもどうぞ」
 
 うん、小宮の声はなかなか良かった。ちょっと高めでセクシーな声。『大きなのっぽの古時計』とか歌って欲しい。
 
 あたしの差し出したお茶を受け取ろうとする小宮。その時指先が触れてビクッと手を引っ込めた。
「このくらいで意識してどうすんの小宮。そんなんじゃこの先、生きてけないよー?」
 女性がまったくいない職場で働くつもりなんだろうか。色々と小宮の将来が心配だよ。
 
 向かいのソファーに座ってたのを、おもむろに移動して小宮の右隣に座る。
 ライトの色が赤だから分かりにくいけど、きっともう真っ赤になってる。膝に置いた手の指先が震えてるもん。
 
 すっとその手にあたしの手を重ねてみる。
 
 ぴくっと跳ねる指先。
 恥ずかしそうに伏せた目は、前髪に隠れてよく見えない。
 もう……今度切ってもらおっと。
 
「じゃあしばらく、こうやって手を置いたまま歌うから。これも修行だと思って我慢するんだよ、小宮」
「うん……」
 
 そして宣言どおり、手を重ねたままあたしは一曲歌った。
 春っぽい柔らかくてふわふわした曲を歌いながら。
 だけどあたしの意識は左手にばかり向いていた。
 熱を伝えてくる左手に。その下の、小宮の感触に。
 
 ……いつもながら、あったかい手。
 あたしのより一回り大きくて、こういうトコはちゃんと男の子してる。
 全体的に細身だけど、身長もそこそこあるし。もっと男らしくしてくれれば、いくらでもトキメけるのに。
  
『比奈さん。僕は初心者だけど、頑張って気持ちよくしたげるから。ほら、肩の力を抜いて……』
 
 なんて言ってぎゅっと抱きしめてくれて。
 押し倒してくれたりしたら、そりゃもう朝まで何度だって……。
 
 何度だって……。
 
 ……。
 
 
 あ、あははは。想像したら体が熱くなってきた。
 ナニ考えてるんだかあたしってば。
 
 でもそうなったらいいなぁ……。あり得ないとは思うけど、
 ちらっと隣の小宮を見て、その妄想はすぐに掻き消えた。
 真っ赤な顔で目を瞑って、必死に耐えてる様子の小宮。
 やっぱり100%あり得ない。  
「ほら小宮、肩の力を抜いて。リラックスリラックス」
 ってあたしが言ってるし。
「うん……」
 はぁ、と内心ため息をついた。
 小宮から押し倒してくれるなんて、絶対なさそう。
 
 なんとなく、つまんなくなって指先をぐりぐり動かした。
 手を重ねたまま、小宮の手の甲を弄って遊ぶ。
「ちょっ。比奈さん……く・くすぐった……」
 あは。面白い。めっちゃ震えてる、小宮。
「これもスキンシップ、スキンシップ。ムードを盛り上げるのに必要なんだって」
「盛リ上がるのこれ……う・く……も、もうやめてクダサイ……」
「感じやすいのねボク? なんちゃって〜。あはは」 
 笑いながら手を放して小宮を解放してあげる。あー気持ちイイ。
 ストレス発散には小宮弄りが一番。なんつって。
 放した手を食べ物のメニュー票に移して本日の修行は終了。
 
「ヒドイ……」
 テーブルにぐったり突っ伏す小宮に「ごめんごめん」と愛想笑いを向け。小腹を満たすオヤツを選ぶ。
 ちょっと苛め過ぎた?
「でもさ、こうやってくすぐり合いこしてるウチに、ソノ気になってきてベッドに……ってパターンもあるんだよ、ホントに」
 言い訳めいてるけど講釈たれてみる。小宮は取ろうとしたお絞りをボトッと落とした。
 うん、くすぐったいってのは感じてるってコトだし、これでムラムラきたりもするんだよね。
 ムラムラした男の子によく押し倒されたモンですよ?
 お子ちゃまの小宮には分からないだろうケドさ。
 お子ちゃまの……。
 
 ……………………。
 
 
 ……………………。
 
 
 ……………………。
 
 
 
 あれ? 待てよ?
 
 小宮だって立派な男の子なんだし。ムラムラきてもいいハズだよね?
 
 ふと小宮を見る。
 あたしの言葉に恥ずかしくなったのか、もじもじしてる小宮。視線をその横顔からすすーっと下に下ろしていった。
 几帳面な小宮らしく閉じられた足に。
 さりげなくメニュー票を見てるフリをして観察を続ける。
 
 そういえば……どうなんだろ。
 
 普通、こんな密室で女の子と二人きり。
 隣に座って。手も繋ぎあって。
 少しはムラムラするもんじゃない? 
 うん。ムラムラしてもいいと思うんだよね。
 そんでもって男の子なら、ムラムラした証拠に……。
 
 
 じっと太股に目を向ける。
 
 
 証拠に……あ、あそこが、反応して。
 えと……ちょっとは、硬くなったり……。
 
 
 ………………。
 
 
 ………………。
 
 
 ………………。
 
 
 うわー! うわー! うわーっ!!
 
 ど、どうしよう。
 めっちゃ知りたくなってきた。小宮のアソコがどうなってるか。
 で、でも直接触るなんてさすがにやばいし。一応公共の場だし、ここ。
 
 手で股間をぎゅっはできないよね。うん。ダメだダメだ。
 でも……ちょっとだけ。手じゃなくて例えば膝とかでちょっと触れるくらいなら……。
 
 
 
 
 ……………………………………ゴクン。
 
 
 
「小宮。なんかオヤツ頼もっか?」
 
 メニュー票で隠してた顔を上げ、頬のひくつきを抑えながら言った。
 
「あ、うん。なんでもいいよ」
 
 振り返る純粋な小宮の瞳が眩しい。くっ。ここで怯んでなるものか!
 
「じゃあ注文してくるね」
 
 立ち上がって小宮の前を通る。
 テーブルと小宮の間の狭い隙間。当然ながら普通に通れるワケがなくて。あたしは斜めに体を傾けて進んだ。
 
 
 そして――――
 
 
 
「あっ!」
 
 
 バランスを崩したフリをして、小宮に倒れ掛かった。
 
 
「わっ!」
 
 
 いきなり覆い被さってくるあたしに驚く小宮。上擦った声と同時に後ろにのけ反る。
 でも背後は壁なのでゴンッ、と頭をぶつけるしかない。「イッ」と痛そうな声を出した後、状況に気付いた小宮は次の瞬間、硬直した。
 
 小宮の胸にしなだれかかってるあたしに気付いたのだ。
 
「ひっ、比奈さんっ!」
 
 ボッと燃え上がる小宮の体温を感じながら、あたしはすかさず膝を小宮の足の間に割り入れた。
 肩に手をかけて身を起こす、その直前、グッと密着して頬をあたしの髪で撫でる。
 すぼまってた肩が大きく跳ねるのを確認してから、ゆっくり胸を離した。
 
 
 
「ごめんー。倒れちゃった」
 
 
 えへへ、ってなカンジで謝りながら、いい位置に置いた膝に体重を乗せる。
 
 これで小宮のアレが…………。
 
 
 アレが……………………。
 
 
 ……………………。
 
 
 …………。
 
 
 
「ひ、比奈さん、足っ! 足を……ちょっと……」
 
 
 
 ない。
 
 
 低反発すらない。
 
 
 
 小宮の声を無視して膝をグッと押してみる。
 やっぱり全然柔らかい。
 
 
 小宮の股間はまったく無抵抗のスポンジ状態だったのだ。
 
 
「ど、どいて比奈さんっ!」
 限界を超えた小宮が訴えかけてくるけど反応できないあたし。
 ぐるぐるぐると頭が回る。
 ふにゃ……。ふにゃ……。これっていわゆるふにゃ……。
 うそでしょ。あんだけ密着したのに……。今もこんだけ触れ合ってるのに……。
 
 ふらっと小宮から離れて床に手をついた。
 
「小宮……正直に話して」
「え? 何を?」
「体に異常があるって、言われたことない?」
「体に……? いや、別に言われたことないけど……」
 
 
 ぐわぁぁ〜〜〜〜ん
 
 
 これでも結構スタイルには自信あったんですけど。
 生唾ゴックンって言われたことだってあったし。それなりにボンッキュッボーンだと思ってたのに……
 
 なのに。なのに。なのに。 
 
 
 
 
 なんて見事な休火山。
 
 
 
 
 あ、あたしの色気ってそんなもんだったの……? 
 
 
「小宮……」
 
 
 あたしは低い声で小宮の名を呼んだ。
 
「は、はい」
 
 心なしか怯えた声が返ってくる。
 
「特訓。月曜から、ガンガンいくからね」
  
 ごくん、と生唾飲み込む小宮をキッと睨んで言った。
 
 
 スポンジ……スポンジ……スポンジ……。
 
 
 
 
 くっ……。ま、負けないもんっ。  
 
 
 
 
 勝負はこれからなんだからぁぁぁっ!!
 
 
		
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