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青春白書直下型


 

 キーンコーンカーンコーン
 
 一日の課程の終了を告げる鐘が鳴った。
 にわかに騒がしくなる教室の後方で、俺も帰り支度を始める。
「おっさきー!」
 帰り支度完了までジャスト10秒。俺は準備にだらだら時間をかけない。
 さっさと帰ってゲームの続きをしようと廊下に飛び出した。
「直行!」
 そんな俺を呼び止めるメゾソプラノの声。
 ちぇっ。なんだよ。
 俺は渋々足を止めて背後を振り返る。
 そこにいたのはすらりと細い脚で仁王立ちする女子。
 小さい顔、整った目鼻立ちに長いマツゲは可愛い部類と言える。
 でも中身は可愛い女の子とは程遠いクラスメイトの女子、谷崎 美尋だ。
「なんだよ美尋」
 帰る気マンマンだったところに水を差されてちょっと不機嫌に答える俺の名は持部 直行。高校二年生。部活は帰宅部だ。
「今週末あいてる?」
「今のところ特に予定はないけど?」
「じゃあさ、一緒に遊園地に行かない? 近くに新しくできたとこ」
「ゆぅえんちぃ?」
「そそ、フリーパスもらったんだ。もったいないから行こうぜい!」
 美尋はにかっと笑いながらVサインして言った。
 行こうぜいって・・・・。
 コイツの喋りはちょっと男っぽい。顔は可愛いのに、サバサバ系なのだ。
 そこがいいって男もいるけど、話しやすすぎて俺的には恋愛対象外。すっかり男友達のノリだ。事実、コイツとはよく二人でゲーセンなんかに行って遊ぶ仲。遊園地に行こうって誘われるのにもなんら違和感はない。
 だけど遊園地はなぁ・・・。
「パス。人でごみごみしてるとこは苦手なんだよ」
「えぇ〜つれないじゃん」
「他の奴誘って行けよ」
「むむ。アタシが他のオトコと二人で遊園地なんか行っちゃってもイイノ?」
 冗談めかしてブリッコポーズで顔を覗きこんでくる美尋。バカかこいつは。
「誰とでもどことなりとも勝手に行け」
 今更だっつーの。そういうのはすでに違和感を感じるイメージだお前は。
「かぁ〜〜冷たいねぇ。そんな事言わずにさ。ボランティアだと思ってちょっと付き合ってよ」
「ボランティア?」
 なんだそりゃ。
「うん。実はその遊園地さ、うちの親の知り合いが経営してるんだって。で、今後の運営の参考に、イマドキの若者に実際に遊んでもらって、感想を教えて欲しいらしいのよ」
「それでもらったフリーパスかよ」
「そそ。いいじゃん、たまには遊園地も。こういうの、直行が一番気軽に誘えるんだよ」
「お前、意外と友達少ないのな・・・」
「アンタに言われたくないっての! そっちこそ、アタシ以外につるむ友達、数えるほどしかいないじゃん!」
 ぐさっ! 今のなんかちょっと痛かったぞ!
 べ、別に俺はヒキコモリじゃないからな。うん、まっとうな健康的な高校男児です。友達が少ないのはアレだ。気が合う奴以外とあんまつるむ気しないっつーか、人付き合いがめんどいっつーか。でもそれって普通だよね?
 ちょっと俺が怯んだのを勝機と見たのか、さらに美尋はたたみかけるように言葉を紡ぐ。
「そういうわけで、週末一緒に遊ぶ友達もいない淋しい者同士、せめて世間様のお役に立てるようボランティア活動を行うのがいいと思います! ハイ決定!」
「をぉい! むっちゃ強引じゃね?」
 とかささやかな抵抗しつつ、すでに俺は美尋の勢いに気圧されている。くそっ。コイツ腕をあげたな。
「じゃあ日曜日、午前9時に駅前集合! 反論ドタキャン受け付けません! てか来なかったら女子にある事ない事言いふらす! おーけぃ?」
「すみません。俺の意志って完全無視?」
「無視!」
「りょーかい」
 俺は諦めて敗北宣言した。まぁコイツが強引なのはいつもの事だ。
 でもそれでいいのか俺の人生? ちょっとため息。
 
 
 そんなわけで、やって来ました遊園地。
 新しくできただけあって、見た目キレイで入場門にもオープンカフェとか小洒落たモンが揃ってる。
 園内は予想通り超混雑。ラ○ュタ風に言うならば、「見ろ! 人がゴミのようだ!」ってカンジ?
 ちなみに「見ろ! ゴミが人のようだ!」「はっひふっへほ〜!」とかってギャグもどこかで見たなってスミマセン、他人のネタでしたね。
 ともかく、俺と美尋は不愉快な人ごみの中、目玉アトラクションめがけて突き進んだ。
「最初はどれから行くんだ?」
「ん〜と、まずは一番軽いジェットコースターにしよっか」
 答える美尋の今日の格好はなかなかお洒落だ。
 いつもは下ろしてるセミロングの髪をお団子にして、カラフルなピンをアクセントに散りばめている。透かし編みの紅色のカーディガンの下に白いキャミソール、七分丈のジーンズにサンダル。ファッション雑誌に出てきそう。
 なんでコイツ、こんな気合の入った格好してんだ? もしかしてデートっぽいのを意識してんのか?
 いやいや、今までコイツと何回も遊びに出かけたけど、そんな雰囲気になった事はない。
 一応遊園地という場所に合わせて来たんだろう。よく見るとこの遊園地、やたらカップルが多いしな。なかなかご立派なボランティア精神だ。
 
「うわ〜結構たけぇぞコレ」
 俺は首をほぼ垂直に上げてむっちゃ高いジェットコースターを驚愕の声と共に凝視した。
「よ、よし、行こう!」
「・・・あ? 気のせいかお前、声震えてない?」
「気のせい! 全然オッケー!」
 ・・・全然気のせいに見えないんだけど・・・。
 美尋は明らかに顔色を変えている。もしかしてコイツ・・・絶叫系、苦手?
 しかしそんな俺の質問を逸らそうとしてるかのように、美尋はずんずん進んで待ちの行列に加わった。
「おーい、苦手なら無理しなくてもいいんじゃないか?」
「何言ってんの! これは武者震い!」
 ひきつった笑みを浮かべて親指をぐっと突きたてる美尋。無茶苦茶強がってますよこのヒト。
 まぁ平気だと言い張るんなら好きにさせとこ。
 ほどなく俺達の順番が来て、赤いシートに乗り込む。がちっとセーフティバーで固定されると、さすがに俺も緊張する。ああ、これから振り回されるんだなぁ・・・って。
 横を見るとあからさまに恐怖の色を浮かべてる美尋がぐっとバーを掴んで前方を睨んでた。
 手でも握ってやりたい気分になって、なんか彼氏みたいじゃねぇソレ? って即座にそんなアホな考えは振り払った。
 と、ふいに美尋がこっちを向いた。何か言いたさげに口をパクパクさせる。
 なんだ? 金魚のマネか?
 ってそんなわけないか。
 どうやら怖くて声が出せないらしい。「あうあう」ってなカンジで言葉を絞り出そうと情けなく顔を歪める。
「アーホ!」
 俺が言ってやると、
「うぅーっ!」
 悔しげに口の端を伸ばして唸る美尋。だから言ったじゃねぇか。
 ついでに舌を出して挑発してやってると、ガタンと車体が滑り出した。
 
 ゴオォォォォ!
 
 
 す、すごかった・・・・。
 どこが一番軽いジェットコースターだよ。風圧で前髪の生え際が5センチほど後退したんじゃないかってスピードだったぞ。
 途中、「うひゃあっ!」とか情けない悲鳴をあげちまったし。
 美尋に聞こえてなかったろうな・・・?
 ちらと隣を見ると、俺の声が聞こえた可能性なんて100万分の1もなさそうな顔した美尋ががっくり肩を落として歩いてた。半分死んでる? どろどろどろって火の玉が出てるぞヲイ。
「大丈夫かお前・・・」
「だ、だだだ、ダイジョウブに決まってんじゃん!」
 慌てて虚勢を張る美尋。
 おーい。ここに面白いヒトがいますよー。なんだよそのマンガみたいな反応。
 気を取り直したのか、美尋は無理矢理笑い顔を作って、
「つぎっ、次はね、このウォーターコースターに行こ!」
「もうやめといた方がいいんじゃね?」
「楽しみでアドレナリン全開だっつーの!」
 ・・・・ああ、もう好きにして。
 意地を張る美尋に手を引かれて、俺は仕方なく次なるアトラクションに足を向けた。
 
 水の上を走るボート型の乗り物、ウォーターコースター。
 最初は気が抜けるくらい穏やかに進む。ファンタジックな飾り付けの洞窟の中をゆらゆら、照明が暗いからカップルにはいいムードで進むわけで。
 前の座席のカップルがいちゃいちゃとくっついてやがる。
 なんだか妙に苛々するんですけど。
 俺と美尋の前でそんなにいちゃつくな。気まずくなるだろ。
「直行、そんなあからさまに睨みつけなくても・・・」
「いーえ俺はなんにも睨んでませんよー」
「カップルを妬んでるカノジョなし男っぽくてちょっと見苦しいよ」
「なんだとコラ」
「いいじゃん、アタシ達も傍から見たらカップルなんだからさ。ちょっとくらい大目に見てやりなよ」
 なんか勘違いしてる美尋に諭されて、俺は仕方なくしかめっ面をやめてやった。
 まぁ今更バカップルに影響される仲じゃないしな。
 でもって終点が近付いてきた。
 今度のはさっきよりおとなしめだろ、とタカをくくってたが。
 水を滑り落ちる浮遊感って、結構キツイのな・・・。
 ふわっと浮いた感じに思わず息を呑み込んだら。
 突然バーを握る手の上から温かい感触が包み込んだ。
 横を見ると、悲鳴をあげる直前ってな涙目の美尋が小さくこっちを見ながら、俺の手を握っていた。
 またもや口を開くが、「ひっ」と一声。水に突っ込むと同時にバーにしがみつく。
 なんつーベタな怖がり方だよ。
 やっぱこーゆーの苦手なんじゃん、無理しやがって。
 嘆息。
 
 そんな感じで幾つかのアトラクションを制覇して、俺と美尋は昼飯を食いに園内のフードコートに向かった。
 多国籍料理店が並ぶ中央に寄せられたテーブルについて、美味そうな匂いが漂う中、俺が食べてる物はこれだけ色んなメニューがある中のフライドポテト。
 なんつーか死人一歩前の美尋がジュースだけちびちび飲んでる前で、俺だけ美味しくメシなんか食えるわけがない。てゆーかメシが不味くなる。やめれ、その顔。
「直行はもっと食べていいんだよ」
「色々とお腹いっぱいだよ。ポテトだけで十分」
 ちょっと言い方が不機嫌ぽかったかな?
「う・・・直行、楽しくない?」
「お前がその調子で楽しいわけあるかよ。絶叫系が苦手なら苦手で、乗らなきゃいいじゃねーか」
「苦手じゃないってば!」
 どこまで強がるんだコイツは。
 でもそういう美尋の必死な瞳はちょっと潤んでて。
 ・・・不覚にも、可愛い、とか思ってしまった。
 いや! だけどこんな女、絶対にあり得ないから!
 俺の索敵範囲・・・じゃない、恋愛対象範囲にかすってもいないから!
 だってコイツ、そういう色気ゼロなんだよ。
 最初は気安く話しかけられて、ちょっといいかなー? なんて思ったりもしたけれど。
 話せば話すほど、女を相手にしてるって思えなくなって。
 万が一コイツが俺のこと好きだっつっても、もうどう頑張ってもときめかない。
 ・・・・・・・・ん? 今、なんか不穏な考えが・・・。
 万が一・・・・そうだ。俺、もしかしてちょっと意識してる?
 もしかしてコイツ、俺のこと好きだったりするかな〜とか。
 だって、なんか今日お洒落してるし・・・・。
 妙に気合入ってるし・・・・。
 なんか可愛いし・・・・・。
 
 ってうをぃ!!
 
 あり得ないって! あり得ないだろ? しっかりしろ、俺!
 こんなガサツなオトコ女に落ちてどうするよ!
 俺は自分に渇を入れるために両手で頬を思いっきり叩いた。
「な、なに? 突然どうしたのさ?」
「いや、なんでもない。ちょっと自分の思考の軌道修正を・・・」
「直行もたまにわけわかんないよね」
「一番わけわかんねぇのは今のお前だっての!」
「うっ・・・」
「そんな必死に絶叫系に乗らなくてもいいじゃねぇか! ボランティアもほどほどにしとけ!」
「そ、そうだね。あははは。アタシ、ちょっと頑張ろうって気負いすぎてたかな?」
「むちゃくちゃガチガチだぞ」
「あう〜・・・。面目ない」
 およ。なかなか殊勝な態度。
 美尋は滅多に見せないしゅんとした様子でストローをいじくり回した。
「でもあとちょっとなんだよねぇ・・・」
 ポソリと呟く。
 ん?
「あとちょっとって、なにが?」
「えっ!?」
 
 ・・・・・・・。
 
 なんだこの間は?
「あ、いや、あはははは! なんでもないよ!」
 をーい、めちゃくちゃ気になるぞー。
 美尋は思いっきり顔をひきつらせて、
「さ! 次は何にしよっか!」
 わざとらしくパンフを覗き込んだ。あ、怪しすぎる・・・。
 まぁいいけどさ。
 
 俺と美尋は微妙な空気を引きずったまま、午後もそんな調子で次々とアトラクションを制覇して行った。
 意地でも絶叫系に乗ろうとする美尋には・・・・もう諦めた。
 まぁでも乗り物に乗るのは純粋に楽しいし、乗ってる時以外は美尋はいつものように明るい顔で話しかけて来るので、こういうのもたまにはいいかもな、なんて調子のいいことを思ったりもする。
 ループコースターで心臓ばくばくしてる横で同じようにばくばくさせてる美尋がいると思うと不思議な連帯感・・・みたいなモンが生まれるわけで。
 もとより気さくな仲だった俺達だけど、もっと身近に感じたりする。怖がってる美尋も可愛いし、ってまた俺余計な事考えてる!
「直行、アイス食べようぜい!」
「へいへい。何味がいい?」
「アタシはチョコミント、って、なにソレ奢ろうとしてくれてる?」
「ん。乗り物タダだしな。お前のおかげで。アイスくらい奢るよ」
「およよ! なんか優しいじゃん! さてはアタシの魅力に参ったな?」
「お前のアホさ加減に参ってます」
「なんですとーっ!」
 頬を膨らませながら回し蹴りをかましてくる美尋。
 だいぶ絶叫系にも慣れたか? 余裕出てきてんじゃん。
 こうやっていつものようにアホな漫才やってると、ちょっとホッとする。
 デートっぽい雰囲気になってると、その気もないのに変に意識しちゃったりして今後の人間関係維持に困るからな。
 いくら可愛くても相手は美尋。これ以上仲が進展する事なんてあり得ない。うん。
 それから俺達はアイスを食べて、ゲーセンで中休みして、なんとなくぶらぶら散策したりして。なんのかんので隅々まで楽しんで回った。
 気付けば空は夕焼け色。
 乗り物もほとんど制覇した。
「よーし! 最後はアレだー!」
 そう言って美尋が勢いよく指差したのは、地上100メートルの高さのフリーフォール。
「あ、あれだけはやめといた方が・・・」
 最後までこれが残ってたのは、もちろん絶叫系の中でも飛びぬけてキツイからだ。
 男の俺でも躊躇するぞ。
「いーや! やっぱ最後のシメはあれでしょう! 華々しく最期を飾れるよ!」
「飾りたくねぇ! 俺はまだ人生に未練がある!」
「ぐふふふふ・・・まさか直行、コワイ、とか?」
 こ、このやろう・・・。
 絶叫系乗ると死人なお前にだけは言われたくねぇ!
「調子に乗るとイタイ目にあうぞ、ん? お前も乗るんだからな」
「ふっふっふ・・・望むところさ!」
「おーし、よく言った! ちびったら卒業までそのネタでいじり倒してやるからな!」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞムサシ!」
 なんだムサシって・・・。
 だいたいそれだとお前は俺に負ける小次郎だぞ?
 まったくノリだけで生きてる女だよ。あはははは。いい度胸だ!
 俺は、美尋のこーゆー勇ましいノリが好きだ。
 そんじょそこらのきゃぴきゃぴしてるだけの女とは違う。
「受けてたとう!」
 俺達はにやりと笑いあいながら、乗り場まで走って行った。
 夕陽と同じ色のシートに座り、がちゃっと固定されると、嫌が応にも気分は盛り上がる。
 カップルシートなのですぐ横にある美尋の顔。
 心なしか青ざめてるけど、それ以上の気迫を漂わせてる美尋。
 まったく苦手なくせに、何がコイツをそこまでさせるんだか。
 そんな親のカタキを見るような目で前を睨まんでも。
 勝負は勝負だけど、なんとなく気分を紛らわせてやりたくなって、俺は美尋の手をぎゅっと握った。
 びっくりした顔でこちらを振り向く美尋は純粋に可愛かった。
 俺を見て、にこっと安心したように笑う。うん、こういうのも悪くない。
 ガタン、と体が揺れて、ゆっくり上昇していく。
 地上100メートルの高さから見る夕焼けはかなりキレイで。
 これから始まるだろう恐怖体験へのドキドキに、景色に胸打たれるドキドキが重なった。
 俺の横で「わぁ〜!」と歓声をあげる美尋の表情にもドキドキしてるような錯覚を覚える。
 緊張感はほぐれたようだ。生き生きした眼に戻ってる。
 やっぱりこういう顔が美尋らしい。
 そしててっぺんでしばし壮観な眺めに見惚れた後。
 がくん、と体の支えがなくなった。
 うわっ! マジでキツイ!
 全内臓を締め上げる落下の感触。
 悲鳴をあげそうになるのを懸命に堪えた。
 ぎゅっと握ってくる美尋の手に力が籠もる。
 引かれたような気がして隣を見ると、美尋がこっちを見てた。
 目が合うと、何故かにやりと意味深に笑う。
 そのまま美尋は前を向き直り、大きく口を開け────
 
「なおゆきぃぃ!! 好きだぁぁぁっっ!!」
 
 大絶叫。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
 
 ・・・・・・・・・・はぁ?
 
 はあぁぁぁぁっ!?
 
 
 地上に着いて、おぼつかない足取りでよろよろと恐怖の乗り物から遠ざかって。
 俺はがっくりと地面に手をついた。
「お、お前なぁ・・・」
 呆れて二の句が告げない。
「あはっ! あははっ! あははははっ! やった! やったっ!」
 美尋も腰を抜かしたように地べたにぺたんと座りつつ半ば震える声で言った。
「まさか、このために・・・」
「うん! 雑誌でさ、絶叫マシンに乗ってる時にコクるとうまく行く確率が高いってのを見てさ!」
「この大バカ野郎が・・・・」
 時と場所を考えろ、って、時と場所を考えた結果がこれか。
「ボランティアってのも・・・」
「うん、もちろんウソ!」
 すっかり騙されてましたよボク。
 美尋は心底可笑しい風に目尻に涙を浮かべながら、満面の笑みで俺を見た。
 確か吊り橋の上で告白されると怖くてドキドキするから、そのドキドキを相手が好きなものと錯覚してしまう、って聞いたことがある。絶叫マシンでってのもそれと同じ原理なんだろう。
 コイツ、虎視眈々とそのチャンスを狙ってたのか。
 してやられた・・・。
「あは! あはははは! どーだ、参ったか!」
 勝ち誇った顔でVサインする美尋。
 でもまだ恐怖を引きずってるのか僅かに口許が引きつってる。お団子頭は崩れて後ろ髪がピンピン跳ねている。
 こんな女、冗談じゃない。
 ガサツで策士なオトコ女なんて、冗談じゃない。
 でもこのために今日一日、一生懸命苦手な絶叫系に乗ってたのかと思うと不覚にも胸がじんとしてしまって。ついでにさっき手を握った時にこっと笑った顔を思い出しちまって。
 訴える心とは裏腹に、口をついて出た言葉は。
  
「参りました・・・」
 
 結局美尋には勝てない俺なのだった。
 
 
 
「って、もしかして、フリーフォールなだけにオトされた俺!?」
「・・・・にやり」
「うわっ! なんだその寒いオチ!」
 
 とりあえず持部 直行、高校二年生。
 不本意ながら、初めての彼女、できました。
 
		
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