ごしごし。ごしごし。 洗面台に溜めたぬるま湯に布を浸し、強く揉みしだく。 ぬかるんだせっけんを、爪が食い込むほどに握りしめ、ひたすら布地にこすりつける。 ごしごし。ごしごし。 飛び散った泡は襟元にまで達し、腕を伝う水滴は、肘までまくりあげた袖口を濡らす。 しかし、どれほど洗っても、洗っても、下着の染みは消えてはくれず、真奈の目に不安と焦りの涙が滲んだ。 母親に聞けば、染みを取るもっといい方法を教えてもらえるのかもしれない。だが真奈にはそれができなかった。 最初はドキドキしてたのに。 親友が一人二人と初体験を済ませていくなか、真奈は彼氏さえできず、守りたくもないバージンをいつまでも守っていた。 だから同じクラスの女子に、他校の男子生徒と遊ばないかと誘われた時、これで自分も友達の輪に加われると喜んだものだ。 友達の家にお泊りと親に嘘をつき、なけなしのお小遣いを持って、「いざロストバージン!」と期待に胸を膨らませ、初めてのラブホテルに足を踏み入れた。 しかしそんな真奈を待っていたのは、ときめきでも、突き抜けるような快感でもなく。 部屋に入った途端、それまでの親しみやすい態度を一変させ、欲望を露にした顔で迫ってくる男二人との、地獄のような時間だった。 「やめて」と泣き叫んだ。だけど許してもらえなかった。 足を無理矢理開かれた。何かが体を突き破った。 痛くて。苦しくて。気持ち悪くて。 吐き気がしてたまらなかった。 そこには、想像していたような、甘いものなどひとかけらもなく。 ただ自分が壊されていく感覚と、恐怖だけがあった。 一晩明けて残ったものは、なんともいえない虚しさと疲労感。そして下着にこびりついた赤い染み――。 自分は大事な何かを失ってしまったのだと、ぼんやりとする頭に染み入ってきたのは、逃げるようにして一人、朝方の自宅に帰りついた後だった。 「真奈。お母さん、少しでかけてくるわね」 洗面所の入り口から聞こえてくる母親の声に一瞬肩をすくめ、真奈は小さく「うん」と返事をした。 それから遠ざかっていくスリッパの足音に安堵したが、同時に途方もなく重い何かが心の底にのしかかり、ぎゅっと手の中のものを握り締めた。 押し出された白いせっけんがつるりと滑り落ちる。 知らず、涙が頬を伝った。 とにかく洗わなきゃ――。 何かに突き動かされるように、再び震える手を動かし始める。 ごしごし。ごしごし。 時間が経ち、茶色く変色してしまった染みはいくらせっけんでこすっても簡単に落ちはしない。 爪の隙間には、剥がれたせっけんが深く食い込み、じんじんと限界を訴える。ただ指先だけが、虚しく白に染まっていく。 それでも真奈は一心不乱にこすり続けるのだ。もう取り戻せないのだとわかっていても。 この染みは消えない。きっと一生、消えないのだとわかっていても。
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