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13.あたし暴走!?


 

「比奈さんっ! どうしたの!? 目が、目がすわってるよっ!?」
 
 あたしの体の下で必死に叫ぶ小宮。
 
「そう? いつも通りだよ〜」
 
 何故だかにんまり笑ってしまう。頬が勝手に緩む。
 
「ノド、乾くね。熱くない?」
 
 あたしは小宮の腰の上に跨ったままテーブルに手を伸ばした。
 まだ残ってるピーチジュースの缶を取って一気に飲み干す。
 喉の渇きが潤って気持ちいい。
 体が熱くて溶けそうだったんだ。
 
「っ! 比奈さん! それ、ジュースじゃないよ! カクテルだよ!」
「カクテル〜? あれ? そんなモンうちにあったっけ?」
 
 小宮の言葉につられてピーチの缶をじっと見る。
 何か色々書いてあるけど何故だか頭に入ってこない。7%って数字だけが辛うじて読み取れた。
 
「果汁7%!? すくなっ!」 
「アルコール7%だよっ!」
 
「そなの?」と呟きながらピーチの缶をテーブルに置いて、今度は小宮のグレープの缶を取ってみる。
 
「小宮のは50%もあるじゃん。アルコールなわけないっしょ〜」
「そっちは果汁だよ! 比奈さんのピーチだけカクテルなんだって!」
 
 ふーん。まぁどうでもいいや。
 美味しかったし。
 
「細かいことはいいじゃん」
 
 笑って言いながら胸のリボンを引き抜いた。
 制服の赤いリボンはただの布切れになってハラリと床に落ちた。
 
「なっ! なんで脱ぐの比奈さんっ!?」
「ん〜? 暑くって」
 
 小宮はさっきから何をごちゃごちゃ言ってるんだろ。
 暑いから脱ぐのは当たり前じゃん。
 胸のボタンを3つ開けて胸元を開く。涼しい空気を肺に吸い込む。
 
「比奈さんどいてっ! お願いだから!」
 
 真っ赤な顔を横に逸らして叫ぶ小宮。
 あたしを見ないようにしっかりと目なんか瞑っちゃって。ちょいちょい。
 
 
 ……ムッとキマシタヨ。
 
 
「あたしの胸を見るのイヤなの!? これでもDカップなんですけどぉ!」 
「お、大きさの問題じゃなくて……」 
「結構美乳だって言われてんだから!」
 
 開いたシャツから覗く谷間を見せ付けるように胸を反らす。
 
 今日は下着だって高いヤツなんだからね!
 
「も……ムリ……。頭、くらくらしてきた……」
「気絶したらイタズラしちゃおーっと」
「ええっ!?」
 
 反射的に振り向く小宮の顔に覆い被さる。
 なんだか意地悪したくなってきて、唇を重ねて吸ってみた。
 
「ん……はっ。や、やめて比奈さんっ」
「やぁ……。もっとするのぉ……」
 
 止められない。どんどん熱くなる体が止められない。
 制御不能で、声まで甘ったるくなってきたし。
 
 いつのまにか小宮のネクタイも外して、シャツのボタンを開いてる。
 露になった首筋にキスを落とすあたしがいた。
 
「〜〜〜〜っ。う……やめ……んっ」
 
 首筋から鎖骨。感じやすい部分に唇を滑らせて。
 時々ペロッと舐めると、小宮の体がビクンッと跳ねて、熱い吐息が漏れた。
 
「ん……気持ちイイ?」
 
 上体をずらして潤んだ瞳を覗き込む。
 
「あたしにもして……」
 
「ム……リ。も……ちから、はいらな……から……」
 
 弱すぎだよ小宮。もう……。
 
 ま、どうせ小宮は休火山だし。
 エッチなんてできないもんねどうせ……。
 
 ………………。
 
 あれ?
 
 その時、気付いた。
 あたしの足に触れてるモノ。
 
 小宮の足に絡みつかせたあたしの足は、腿が小宮のコカンにちょうど当たってて。
 
 気のせいかもしれないけど。
 
 
 ……ちょっぴり……固いような…………。
 
 
 
 ………………。
 
 
 
「もしかして、ムラッてきてる? 小宮」
 
「えっ……。そ、そんなこと……」
 
 
 あ。
 
 今、ちょっと動いた。
 
 
 慌てて否定する小宮の顔をじっと見る。
 
 あたしから目を逸らそうと必死の小宮。
 視界に入ろうと目を追いかけたら、ぎゅっと瞼を閉じてしまう。
 
 
 も、もしかして図星……?
 
 
 小宮があたしにムラムラしてくれてる!?
 
 
 
「なんだぁ〜。小宮もソノ気になれるんじゃん! じゃあこのままあたしが上で……」
 
「だっ、ダメっ! そんな初体験、嬉しくないよ!」
 
 うっ。それは確かに……。
 男としての立場がないもんね。
 
「でも小宮から抱けるようになるのなんて……」
 
 そんなの、いつになるか分かんない。
 
 あたしは今すぐにでもエッチしたいのに。
 
 もしかしたら、卒業までこのままかもしんないし。
 
 卒業後も友達でいられるか分かんないし……。
 
 小宮にだって好きなコが……。
 
 できるかも……。
 
 …………。
 
 
 
 
 やっぱり、このままエッチしたい。
 
 
「思いっきり気持ちよくしたげるから、ね? やろうよ、小宮。 てゆーかやっちゃいまーす!」
 
 考えるのがメンドくなって、再びガバッと小宮に覆い被さった。
 
「ええっ!?」
 
 だってせっかくここまできたんだし。
 あたしが上でもいいからエッチしたい。
 このまま肌を合わせてれば、きっともっとソノ気になってくれて、もしかすると小宮からガバッ! とか来てくれるかもしんないし!
 
 
「ス・ストップ! お願い比奈さんっ! 僕、まだ心の準備がっ!」
 
 
 却下!
 
 
 潤んだ瞳で訴える小宮の口を塞ぐ。
 息もできないほどに、何度も何度も。唇を合わせて言葉を吸い取る。
 
「んんっ!」
 
 抵抗する体から力が抜けていった。
 
 
「小宮……。あったかい……」
 
 
 気持ちいい。
 小宮の体温が気持ちいい。
 ずっと抱き合ってたい。ずっと傍にいてほしい……。
 
 ボーッとする頭の奥で、何かが止まれと叫んでるけど。
 そんな声に耳を貸したくない。
 
「ダメ、だ、比奈……さ……今……正気じゃない……僕……」
 
 小宮が何かを言ってるのに。
 もう何を言ってるんだかよく分からない。
 
「このまま・が……傍に……いれ……たら……んぅっ」
 
 首筋に舌を這わせ、耳たぶを軽く噛む。
 全身をビクッと痙攣させた小宮がグッタリしちゃっても。
 
 痺れた頭はただもう小宮だけを欲していて。
 自分を止めることなんてできなかった。
 体が熱くて熱くて仕方ない。
 
 なんでだろう。
 なんでこんなに気持ちいいんだろう。
 離れたくない。離したくない。
 小宮とずっと一緒にいたい。
 
 小宮の耳も。
 小宮の額も。
 小宮の唇も。
 
 全部、あたしのものにしたい。
 
 そしたらきっと――あったかくなれるから。
 
 
 お願い。離れていかないで。
 
 
 このメガネも……。
 
 
 茶色のメガネ……。
 
  
 メガネ……。
 
 
 
 ……。
 
 
 
「邪魔」
 
 なんでいつまでもメガネかけてんの?
 曇ってて目がよく見えないし。
 
 小刻みに震える小宮のトレードマーク――茶色のメガネに手をかける。
 フレームをつまみ、そのままスッと一気に引き抜く。
 
 ――――と
 
「わっ! こ、小宮、カッコイイ〜〜!!」
 
 なにこれなにこれなにこれ〜〜!!
 
 頭の靄が一気に晴れた。
 思わず叫んで小宮の顔を覗きこむ。
 
 すっと通った鼻筋に、二重まぶたのくっきりした眼。
 意外と長い睫がセクシー度を上げてて。
 
 小宮のメガネを外した顔は、予想以上に整ってたのだ!
 
「メガネ取るとそんなにカッコイイなんて超反則! コンタクトにするべきだよ小宮〜」
「反則って……」
 
 小宮の顔を両手で挟んでまじまじと観察。
 困ったように眉尻を下げてるその表情も、カッコ良さに可愛さをプラスして超あたし好み!
 
 うわ〜っ。なんかワクワクしてきたっ。
 もしかして小宮って、かなりいい素材持ってるんじゃない!?
 
「ちょっと髪も整えてみようよ! ムースとか使ってさ〜。あたしがスタイリングしたげる!」
 
 起き上がって鏡台に駆け寄った。
 
 きっとスタイリングするとすっごくカッコ良くなる!
  
 ウキウキしながらムース缶とコームを手に取って振り返ると――
 
 
 
 あ。
 
 
「あ、あはは。それはまた今度お願いするよ」
 
 引き攣り笑いを浮かべた小宮が、服を整え、鞄を抱きかかえて立っていた。
 
 
 
 ああああああああ!! あたしってばせっかくのチャンスをぉぉぉ〜〜〜!!
 
 
 
「待って小宮! せめて髪いじらせてぇ〜〜!」
「じゃあ比奈さん、僕、もう帰るから。また明日〜〜〜っ!」
 
 脱兎の如くの素早さで部屋を走り去ってく小宮。
 ちゃっかりメガネも消えている。
 追いかけようとしたけど、何故か足がふらついてうまく立てない。
 床に膝をつきながら、虚空に手を伸ばした。
 
「ごめん! もうやんないから! ネ! あぁ〜〜んコミヤぁ〜〜〜!」
 
 そんなぁぁ〜〜っ!
 
 バタン、と残酷に響くドアの音――
 
 
 
「行かないでぇ〜〜〜〜!!」
 
 
 
 
 超がっくり。
 
 
		
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