「比奈さんっ! どうしたの!? 目が、目がすわってるよっ!?」 あたしの体の下で必死に叫ぶ小宮。 「そう? いつも通りだよ〜」 何故だかにんまり笑ってしまう。頬が勝手に緩む。 「ノド、乾くね。熱くない?」 あたしは小宮の腰の上に跨ったままテーブルに手を伸ばした。 まだ残ってるピーチジュースの缶を取って一気に飲み干す。 喉の渇きが潤って気持ちいい。 体が熱くて溶けそうだったんだ。 「っ! 比奈さん! それ、ジュースじゃないよ! カクテルだよ!」 「カクテル〜? あれ? そんなモンうちにあったっけ?」 小宮の言葉につられてピーチの缶をじっと見る。 何か色々書いてあるけど何故だか頭に入ってこない。7%って数字だけが辛うじて読み取れた。 「果汁7%!? すくなっ!」 「アルコール7%だよっ!」 「そなの?」と呟きながらピーチの缶をテーブルに置いて、今度は小宮のグレープの缶を取ってみる。 「小宮のは50%もあるじゃん。アルコールなわけないっしょ〜」 「そっちは果汁だよ! 比奈さんのピーチだけカクテルなんだって!」 ふーん。まぁどうでもいいや。 美味しかったし。 「細かいことはいいじゃん」 笑って言いながら胸のリボンを引き抜いた。 制服の赤いリボンはただの布切れになってハラリと床に落ちた。 「なっ! なんで脱ぐの比奈さんっ!?」 「ん〜? 暑くって」 小宮はさっきから何をごちゃごちゃ言ってるんだろ。 暑いから脱ぐのは当たり前じゃん。 胸のボタンを3つ開けて胸元を開く。涼しい空気を肺に吸い込む。 「比奈さんどいてっ! お願いだから!」 真っ赤な顔を横に逸らして叫ぶ小宮。 あたしを見ないようにしっかりと目なんか瞑っちゃって。ちょいちょい。 ……ムッとキマシタヨ。 「あたしの胸を見るのイヤなの!? これでもDカップなんですけどぉ!」 「お、大きさの問題じゃなくて……」 「結構美乳だって言われてんだから!」 開いたシャツから覗く谷間を見せ付けるように胸を反らす。 今日は下着だって高いヤツなんだからね! 「も……ムリ……。頭、くらくらしてきた……」 「気絶したらイタズラしちゃおーっと」 「ええっ!?」 反射的に振り向く小宮の顔に覆い被さる。 なんだか意地悪したくなってきて、唇を重ねて吸ってみた。 「ん……はっ。や、やめて比奈さんっ」 「やぁ……。もっとするのぉ……」 止められない。どんどん熱くなる体が止められない。 制御不能で、声まで甘ったるくなってきたし。 いつのまにか小宮のネクタイも外して、シャツのボタンを開いてる。 露になった首筋にキスを落とすあたしがいた。 「〜〜〜〜っ。う……やめ……んっ」 首筋から鎖骨。感じやすい部分に唇を滑らせて。 時々ペロッと舐めると、小宮の体がビクンッと跳ねて、熱い吐息が漏れた。 「ん……気持ちイイ?」 上体をずらして潤んだ瞳を覗き込む。 「あたしにもして……」 「ム……リ。も……ちから、はいらな……から……」 弱すぎだよ小宮。もう……。 ま、どうせ小宮は休火山だし。 エッチなんてできないもんねどうせ……。 ………………。 あれ? その時、気付いた。 あたしの足に触れてるモノ。 小宮の足に絡みつかせたあたしの足は、腿が小宮のコカンにちょうど当たってて。 気のせいかもしれないけど。 ……ちょっぴり……固いような…………。 ………………。 「もしかして、ムラッてきてる? 小宮」 「えっ……。そ、そんなこと……」 あ。 今、ちょっと動いた。 慌てて否定する小宮の顔をじっと見る。 あたしから目を逸らそうと必死の小宮。 視界に入ろうと目を追いかけたら、ぎゅっと瞼を閉じてしまう。 も、もしかして図星……? 小宮があたしにムラムラしてくれてる!? 「なんだぁ〜。小宮もソノ気になれるんじゃん! じゃあこのままあたしが上で……」 「だっ、ダメっ! そんな初体験、嬉しくないよ!」 うっ。それは確かに……。 男としての立場がないもんね。 「でも小宮から抱けるようになるのなんて……」 そんなの、いつになるか分かんない。 あたしは今すぐにでもエッチしたいのに。 もしかしたら、卒業までこのままかもしんないし。 卒業後も友達でいられるか分かんないし……。 小宮にだって好きなコが……。 できるかも……。 …………。 やっぱり、このままエッチしたい。 「思いっきり気持ちよくしたげるから、ね? やろうよ、小宮。 てゆーかやっちゃいまーす!」 考えるのがメンドくなって、再びガバッと小宮に覆い被さった。 「ええっ!?」 だってせっかくここまできたんだし。 あたしが上でもいいからエッチしたい。 このまま肌を合わせてれば、きっともっとソノ気になってくれて、もしかすると小宮からガバッ! とか来てくれるかもしんないし! 「ス・ストップ! お願い比奈さんっ! 僕、まだ心の準備がっ!」 却下! 潤んだ瞳で訴える小宮の口を塞ぐ。 息もできないほどに、何度も何度も。唇を合わせて言葉を吸い取る。 「んんっ!」 抵抗する体から力が抜けていった。 「小宮……。あったかい……」 気持ちいい。 小宮の体温が気持ちいい。 ずっと抱き合ってたい。ずっと傍にいてほしい……。 ボーッとする頭の奥で、何かが止まれと叫んでるけど。 そんな声に耳を貸したくない。 「ダメ、だ、比奈……さ……今……正気じゃない……僕……」 小宮が何かを言ってるのに。 もう何を言ってるんだかよく分からない。 「このまま・が……傍に……いれ……たら……んぅっ」 首筋に舌を這わせ、耳たぶを軽く噛む。 全身をビクッと痙攣させた小宮がグッタリしちゃっても。 痺れた頭はただもう小宮だけを欲していて。 自分を止めることなんてできなかった。 体が熱くて熱くて仕方ない。 なんでだろう。 なんでこんなに気持ちいいんだろう。 離れたくない。離したくない。 小宮とずっと一緒にいたい。 小宮の耳も。 小宮の額も。 小宮の唇も。 全部、あたしのものにしたい。 そしたらきっと――あったかくなれるから。 お願い。離れていかないで。 このメガネも……。 茶色のメガネ……。 メガネ……。 ……。 「邪魔」 なんでいつまでもメガネかけてんの? 曇ってて目がよく見えないし。 小刻みに震える小宮のトレードマーク――茶色のメガネに手をかける。 フレームをつまみ、そのままスッと一気に引き抜く。 ――――と 「わっ! こ、小宮、カッコイイ〜〜!!」 なにこれなにこれなにこれ〜〜!! 頭の靄が一気に晴れた。 思わず叫んで小宮の顔を覗きこむ。 すっと通った鼻筋に、二重まぶたのくっきりした眼。 意外と長い睫がセクシー度を上げてて。 小宮のメガネを外した顔は、予想以上に整ってたのだ! 「メガネ取るとそんなにカッコイイなんて超反則! コンタクトにするべきだよ小宮〜」 「反則って……」 小宮の顔を両手で挟んでまじまじと観察。 困ったように眉尻を下げてるその表情も、カッコ良さに可愛さをプラスして超あたし好み! うわ〜っ。なんかワクワクしてきたっ。 もしかして小宮って、かなりいい素材持ってるんじゃない!? 「ちょっと髪も整えてみようよ! ムースとか使ってさ〜。あたしがスタイリングしたげる!」 起き上がって鏡台に駆け寄った。 きっとスタイリングするとすっごくカッコ良くなる! ウキウキしながらムース缶とコームを手に取って振り返ると―― あ。 「あ、あはは。それはまた今度お願いするよ」 引き攣り笑いを浮かべた小宮が、服を整え、鞄を抱きかかえて立っていた。 ああああああああ!! あたしってばせっかくのチャンスをぉぉぉ〜〜〜!! 「待って小宮! せめて髪いじらせてぇ〜〜!」 「じゃあ比奈さん、僕、もう帰るから。また明日〜〜〜っ!」 脱兎の如くの素早さで部屋を走り去ってく小宮。 ちゃっかりメガネも消えている。 追いかけようとしたけど、何故か足がふらついてうまく立てない。 床に膝をつきながら、虚空に手を伸ばした。 「ごめん! もうやんないから! ネ! あぁ〜〜んコミヤぁ〜〜〜!」 そんなぁぁ〜〜っ! バタン、と残酷に響くドアの音―― 「行かないでぇ〜〜〜〜!!」 超がっくり。
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