六月半ば。 春が終わり、ピリピリした空気が湿気を帯びてくる。梅雨が近い。 じめじめした毎日が来るのかと思うと少し憂鬱。 なんもやる気しないんだよね、この時期って。 でもそうも言ってられない状況のあたし。お店は毎日忙しい。 手伝うの好きだからまぁいいんだけどね。 お小遣いも多めにもらえるし♪ 小宮とのデートは大事な息抜きになっていた。 全く、全然、進展はないんだケド。 小宮といるとなんだか落ち着いて。あの天然オーラに癒されて。 放課後と土曜のデートが定番になっていた。 でもあたしが忙しくてあんまり長く遊べないのが残念。 だからこの日はウキウキしてた。 「適当に座ってて小宮。なんか飲み物持ってくるね」 ベッドも棚もぬいぐるみでいっぱい。それなりにオンナノコしてるあたしの部屋で。 三十分以上前からカチンコチンに固まってる小宮をリラックスさせようと言った。 「う、うん。待ってます」 緊張すると敬語になるのは小宮の癖。最近段々分かってきた。 生温かい視線を小宮に送ってからキッチンに向かう。 でもその足取りは我ながらちょっと浮かれ気味。 「〜♪」って鼻唄まで出ちゃったよ今。 な、なんか落ち着かない……。 さて、なんで小宮がここにいるのかというと。 ズバリ、今日は創立記念日で半ドンの日なのだ。 だから学校帰り、思い切ってうちのマンションに小宮を呼んでみたってワケ。 せっかく平日にできた自由時間。有効活用しないともったいない。 今日はママがいないから部屋で二人っきりになれるのだ。いつもより多めのスキンシップが期待できるかも♪ 女の子の部屋なんてムリ! と最初は逃げようと必死になってた小宮だけど、「ふぅ〜ん。あたしの部屋に興味ないんだ?」と拗ねてみせると、慌てて態度を覆した。 純情少年、チョロイチョロイ。 これで少しはソノ気になってくれれば……。 女の子の部屋で二人きり。 ふとした拍子に触れあう手と手。 自然とムードは盛り上がってベッドの上に倒れこみ、気付けば絡みあったりとかしちゃったりとかして……。 ここで一気にれべるあ〜〜っぷ! ……とはいかないだろうけどさ。小宮のコトだから。 部屋にあがるってだけであの固さだし。 まぁあがってくれただけでもヨシとしておこう。 何故だかにやける頬をペシッと叩きながら冷蔵庫を開けた。 中を確認して缶ジュースを手に取る。 ピーチとグレープの二種類。それぞれ一本ずつ持って部屋に戻る。 と。 うわ〜……。正座だよ。 小宮はテーブルについて、これからお見合いする人の如く待っていた。 トンカチで叩いたらガラガラガラッとか崩れちゃいそうなほど身を硬くしてる。 そんなに硬くならんでも……。 とりあえず、リラックスさせるか。 「なんか音楽聴く? 小宮はポップスとか好きかな?」 「う、うんっ。なんでもいいよっ」 音楽をかけ、隣に座って缶ジュースを飲む。それからお喋りで場を盛り上げた。 小宮の好きな古代文明の話題を持ちかける。 インカ帝国とかマヤ文明しかよく分かんないけど。小宮は嬉しそうに語ってくれた。 風土がどうの。工芸品がどうの。そこで生活してた人々はきっとこうだった、って想像を交えて。 子供みたいに夢中にロマンを語る。こうゆうトコロって男の子はみんな同じ。ホントに目がキラキラしてる。 「いつか遺跡探索行く時、あたしも連れてってね」 聞いてるうちにあたしも行きたくなって言ってみると、小宮は頬を染めて、「比奈さんがよければ……」と俯いた。 「うん、小宮とならワクワクできて面白そう。一緒に行こうね」 すっと距離を詰めて手を重ねて笑う。自然と肩を触れ合えた。 小宮は恥ずかしそうに身を硬くしたけど逃げないでくれた。 「それまでに、初体験できてるといいね」 「……うん……」 あたしの手の下の手をキュッと握る。 「大丈夫。少しずつ触れ合える時間が伸びてきてるから。今日はハグしてみよっか」 「うっ……やっぱり今日も修行するの?」 「もっちろん!」 あたしは満面の笑顔で答えた。 「早く自分からできるようになってね」 小宮の肩に手を置いて体を浮かし、滑り込むように小宮の膝の上に座る。 今までにない至近距離。 横抱きされてるような恰好をテーブルについた手で支えた。 小宮の吐息が近い……。 体が熱くなってきた。 「ひ、比奈さん。ひ・ひざ、膝、ひざっ」 すんごい震えてるよ小宮。ガチガチに固まっちゃって。 いつもより密着度高めだからムリもないか。 「そろそろこれくらい耐えれるようにならなきゃダメだよー」 膝に乗っかったまま上体を捻って小宮と向かい合う。 「あたしをギュッ、ってできる?」 「も、もう。か、からだ、う、動かな……無理っ! 無理っ!」 「だらしないなぁ〜」 でもそこが可愛いんだけど。 ピトッと胸に寄り添ってみる。大きく肩が跳ねるのも構わずに。 ドクドクと脈打つ、小宮の心臓。 震動がダイレクトに伝わってきて。 頭が……なんだか……。 ぼーっと……。 …………痺れてきた。 「もっと女の体に慣れないと……」 あれ? 今喋ったのあたし? なんだろ。口が勝手に動いたような。言葉がするりと滑りだして……。 「あたしが……教えてあげる」 あれあれ? 小宮の顔がどんどん近くなる。 「っ! 比奈さ……」 「んっ……」 一瞬、真っ暗になる視界。 あれあれあれあれ? 何してるあたし? 何してるあたし? 今、目の前のあるの、小宮のメガネじゃない? 唇があったかい。自分のものじゃない息づかい。 あたし…………もしかしてキスしてる? え? なんで? あたし、いつのまに小宮の首に腕を回してんの? ここまでするつもりなかったのに。 言葉を失った小宮の顔。びっくりして目が丸くなってる。 「…………」 数秒間の沈黙が流れた。 それから混乱一色だったその顔は徐々に赤色に染まっていき。 「ひ、ひ、ひ」 比奈さん、って言いたいんだろう。 でもうまく言葉にならない掠れ声をあげ、あたしを凝視する小宮。 あたしにも何がなんだかよく分からない。 ただ小宮の唇が凄く魅惑的に見えて……。 熱い。 どうしようもなく熱い。 「ん……あつっ……」 なんだろうこれ。内側から熱が……めちゃくちゃ熱くて……止まらない。 また勝手に体が動きだした。 小宮の胸に抱きつく。抱きつきながら横倒しにする。 「あっ」とあがる叫び声。ガタン、と揺れるテーブル。 硬直する体はたやすく倒れていって。 そうして気付けば、あたしは小宮の上になっていた。
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